名波 浩監督
――感想
今、総括できるほど穏やかな試合ではなかったのは、みなさんがよくわかっていると思います(苦笑)。1-0の状況でゲームを締め切れないということが、2年前にJ2に降格した大きな原因だと思っていますし、それをいまだに引きずっているようではまだまだ力不足だなと。やはり、改めて、今Jリーグの順位でいくと我々は“20位”なんだなと痛感したゲームだったと思います。
ただ、反省するところはここまでとして、1年間、選手たちは本当によく努力してくれましたし、下を向かずに、チームがばらばらにならずに、そういった強い意志を持ってやってくれました。
4つのテーマというものがあって、それは番記者さんに聞いてもらえればわかると思いますが、それにプラスアルファ、3つの約束というものを作って、『さぼらない』、『諦めない』、『(集中を)切らさない』と。その象徴的なゲームだったと思いますし、最後に決勝ゴールが入った後も締める、終わらせるという気持ちがより一段と強くなったので、見ていて成長を感じましたし、頼もしさを強く感じたゲームでした。
それから、遠いところまで来ていただいたサポーター、テレビなどから応援していただいているサポーターへ向けては、ここ1年間と言わず、J2に降格してからも非常に熱い応援、叱咤激励をしていただきました。まだまだこれがゴールではありませんし、我々はJ1でどう戦うかというものにフォーカスしてずっとチームを作ってきたので、ここからまた茨の道だなと。ただ、今日だけは選手たちを大いに褒めたいなと思います。31人の勇者たちは非常に素晴らしい仕事をしてくれました。
――この一年で一番苦しかったこと、一番よかったことは?
苦しさというものは、僕自身、あまりありませんでした。そういったものを僕の下にいるスタッフが全て請け負ってくれました。そのあたり、メディカルを含めていつも夜遅くまで働いてくれたスタッフたちに頭が上がらないです。来季以降もいい仕事をしてほしいと思います。
よかったことは、選手が目に見える成長をしてくれたことです。戦術理解度もそうですし、個々のスキルアップもそうですが、特に仲間意識・信頼・自分たちに自信を持つ、ということが全てハイレベルで戦えたと思います。昇格できましたが、一歩間違えれば13試合負けなしで昇格できなかった可能性があったので、そうなったら“事故”だなとスタッフに言っていました。最後に勝ちきれたことがよかったですし、アビスパの粘り強さ・躍動というものが我々のレベルアップに大いに役立ってくれたと思います。
――アビスパ福岡のスコアなど、ハーフタイムにはどういった声かけをしたのでしょうか?
僕は知っていましたが、選手たちには伝えていません。ただ、情報化社会ですし、ベンチ外の選手もたくさんいたので、おそらく選手たちは聞いていると思います。ただ、我々としては勝点3しかないと、ホワイトボードに殴り書きしたので、それだけでも、福岡が勝っているということは伝わったと思います。
――選手たちに胴上げされた時の心境は?
引退した時も胴上げしてもらいましたし、胴上げ自体は非常に気分がいいものですが、選手たちには優勝もしていないのに胴上げは必要ないと伝えたのですが。ただ、選手たちのその気持ちは非常に嬉しかったですし、多々あった“叱咤激励”を上手く1年間かわしながら選手たちは成長していったので、そういった選手たちとしても僕やスタッフにありがとうという気持ちを込めていたと思いますし、宙に浮いている間、選手たちの顔、サポーターの声をかみ締めながら気持ちよくはね上がっていました。
――監督就任からしばらく経ち、自身の成長はどう感じていますか?
成長という部分は、まだ頭がクールではないので、言いづらいことがありますが、やはりパウリーニョ選手のあのシュートが入った時点で、勝った後スタッフみんなに言ったのですが、『俺、もってないな』と。昨季の山岸選手のあのヘディングもそうですし、このスーパーゴールが最後の試合でポンポンと入ってしまうのは、『もってないな』と改めて実感しています。来季以降は、そういった“運”とかを上手く呼び込めるように自分自身奮い立たせなければいけませんし、プレーヤーとしては淡々とやってきたので、監督業になって喜怒哀楽を入れていく中で、もう少しやれることがあると実感しています。
――来季J1へ向けて、意気込みをお願いします。
先ほど言ったように、Jリーグで“20位”のクラブなので、失うものはありません。とにかく、“エレベーター・クラブ”にならないことが第一の目標です。それでいて、この選手はJ1で見て欲しいという選手がたくさんいるクラブだと思っています。J1へ殴り込んで、暴れ回ろうとなんて気はさらさらないですが、やはりJ1というハードルにしがみついて、1年、2年と言わず何十年もやっていけるクラブになりたいと思います。
――ジェイ選手が先発した中、途中出場の森島選手も流れを作った部分があったと思います。そのあたりの評価は?
まず、今日のプレー時間、もしくはスタメンという決定権はほぼジェイにありました。僕自身、ジェイができるのであれば、頭から使うと。15分だろうが、30分だろうが、いけるところまでいってもらい、そして、デカ(森島康仁)を入れると。デカが60分、70分で潰れるという傾向にここ数試合であったので、それも含めてでした。デカ自身、コンディションもパフォーマンスも非常によかったので、今日も長い時間使える自信がありました。とにかく、ジェイでいけるところまでいくと。負けたら、もちろん自分のジャッジも悪かったでしょうし、ジェイも責任を感じたかもしれませんが、勝ったので、全て丸く収まると思いますし、デカも決定的なシーンが何度もあって、本人はちょっともやもやしているかもしれませんが、ただ、勝ち試合で最後までピッチに立ったという自信は来季以降、上手く生かしてほしいと思います。
――昨年、監督就任の際に、お母様のお墓に行って誓ったと思いますが、今、どんな言葉を伝えたいですか?
両親がよく言っていたことは、『仲間を大事にしろ』と。それを幼い頃からずっと言われてきて、やはり人脈はお金にも勝ると言われてきた中、僕自身、引退してから監督業をやるまで、その志を一度たりとも忘れたことはありませんでした。それを選手たちに反映させてほしかったですし、それを選手たちがやってくれたことは間違いありません。
番記者のみなさんもクラブ愛を持ってやってくれているなと実感していましたし、クラブハウスを掃除している方々とか、ボランティアでサポートしてくれる方々とか、街ぐるみ、エリアぐるみで我々を応援してくれた気持ちは今後必ず生きると思っています。また、選手たちにより強く訴えていきたいと思います。やはり、仲間はいいものだと改めて思いました。
――『もっていない』という表現もありましたが、この試合でJ1昇格を果たしたという意味で、昨季と今季の違いは?
失った後に、宮崎がゴールの中からボールをすぐに拾って、上田が前にサポートして、小林と森島がゴール前に突っ込んでいくと。『まだ俺たちは終わっていない』、『まだ時間はある』という気持ちが昨季とは違ったのではないかと。昨季、山岸選手のヘディングの後に多少時間があった中で、全員がうなだれて、ピッチにひれ伏すような態度を取った中、そこの切り替えという部分では、言葉でどれだけの自分の気持ちが伝わったかわかりませんが、選手たちが反省を生かしてくれたと。それから、反省という意味では、昨季の悔しさや、今季ここまでストレートイン(※自動昇格)を決めることができなかった反省というものも含まれていると思います。
――小林選手がゴールを決めた瞬間、ホイッスルが鳴った瞬間はどういった心境でしたか?
点を取った瞬間はもちろん嬉しかったのですが、まずは時間を聞いて、残り何分かと。1-1となった瞬間に、藤田を練習でやっていたパワープレーで入れるという形で突っ込もうと思っていました。ただ、状況が変わった中、交代メンバーも変えましたし、自分の中で冷静だったなと。ビジョンの時計はなるべく見ないようにしているので、自分の時計を見ながら、第4審判に時間を聞きました。あとは、もうシンプルに時間を作ろう、セーフティーにとずっと声を掛けていました。
(勝利が)決まった瞬間は、一つの目標をやり遂げたという達成感はもちろんありましたし、振り向いた瞬間に苦楽を共にしたスタッフ、選手たちが集まってきて、非常に感動的なシーンだったと思います。